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佐賀県三養基郡 園田幸男
大豆畑と水田に囲まれた広大な農地のど真ん中。園田農園の透明ビニールハウスが並ぶ。
園田農園は現在、66haの農園で、ほうれん草や小松菜、水菜などの葉物野菜を栽培、出荷している。九州内はもちろん、遠くは東京、北海道からも注文を受ける。それは、徹底した有機農法に定評があるからだ。
おからや米ぬかなどの植物性の「ぼかし肥料」だけを使い、年に一度、種を蒔く前に落ち葉や剪定くずを土に混ぜて土壌を整える。動物性の肥料はいっさい使わない有機農法。どの商品も胸を張ってお客様にお渡しできる、と幸男さんは胸を張る。そうしてできた野菜を受け取ったお客様のほとんどがリピーターとして、また園田農園を選ぶのだ。
農業をしていて一番嬉しく励みになるのは、お客様から、お褒めの言葉やお手紙をいただいたときだ。「ずっとこんな野菜を探していました」といううれしいお声もあれば、時にはサラダとして盛りつけた写真を、はがきにして送ってくださる方もいる。いただいた手紙やメールはすべて大事にファイルに綴じて保管して時折見返す。
とはいえ、動物性の肥料を全く使わない完全無農薬の野菜づくり。最初から順風満帆だったわけではない。太陽熱による熱消毒を繰り返しても、雑草が勢いよく育ったり、周囲の大豆畑から、害虫が大量に入り込んだり。葉が根から勢いを失う「立ち枯れ病」にも悩まされた。雑草を抜いたり、虫にも殺虫剤を使わず、地道な作業を強いられた。まさに自然との共存であり、闘いの日々。
それでも、何度も栽培を繰り返すうちに、少しずつ、収穫量も安定してきた。はじめは4種だった品目も、いまでは12種になり、より多様な葉物野菜を提供できるまでになった。
農業を始める前、幸男さんはコーヒー工場で働いていた。勤務はとても過酷で、午前四時から深夜までの勤務になることもしばしば。
自分の体を作っている「食べ物」に関心をもつ余裕はなかった。独り身の生活で食べるものといえば、コンビニのお弁当や焼き肉、インスタント食品。毎日を乗り切ることに必死な日々が続いた。27歳の時に妻・亜貴子さんとご結婚しても、工場で遅くにご飯を食べる時には、「体にいいものを」などと考えることもなかった。
そんな食生活を続けていた30歳のとき、幸男さんは「クローン病」という、重い腸の病を患った。
厚生労働省が特定疾患に指定する難病のひとつだ。高脂肪のものは食べられず、徹底した食事療法が必要になった。動物性の食べ物や食品添加物には腸が敏感に反応し、血便や下痢、潰瘍による強い痛みに襲われる。闘病はとても過酷だった。
それでも、自分だけの為に、長く続けてきた生活習慣や食生活を変えることはなかなか難しかった。
農業を志すきっかけとなったのは、新しい家族の誕生だった。34歳の時、待ちわびていた子供を授かったのだ。可愛い一人娘。
「娘には自分と同じ思いはさせたくない。もっと安心できる野菜を食べさせてやりたい」
という思いが、園田さんを農業の道に進ませた。実家が兼業農家だったこともあり、思い立てば全く抵抗はなかった。娘が生まれて6ヶ月で工場での勤務をやめ、妻の亜貴子さんと娘、三人で奈良に移り住んだ。
亜貴子さんも、そんな幸男さんの決心についていく覚悟を決めた。
奈良では幸男さんは、農園の野菜栽培の見習いをはじめた。亜貴子さんも「土の扱いに慣れよう」と、シクラメンづくりの仕事をして家計を助けながら、農業の基本を身につけた。
けして楽な生活ではなかったが、目標があれば、苦しいと感じることもなかった。36歳の時、一度病気が悪化し入院したが、症状に合う薬に出会ったこともあり、体調も改善の方向に向かった。地域の人たちに助けられ、子育てをしながら、有機農業についての知識を深め、4年間の修行生活を終え、故郷である佐賀県に帰った。
そして、2010年8月にハウスを建て、同年12月に晴れて33ヘクタールの「園田農園」を開園した。
園田農園での一日は実に健康的だ。毎日5時半に起き、8時には収穫を開始。夏場のビニールハウスでの収穫は過酷で、シャツが絞れるほどの汗をかきながら、和気藹々と収穫する。収穫が終わると午後は一つ一つ野菜を手作業で袋詰め。届ける野菜はすべて根を下にして、できるだけ育ったままの状態で、立てて出荷する。作業が終わるのは午後5時ごろ。日に焼けて毎日自然とふれあう。幸男さんも亜貴子さんも体調は良好だ。
小学生になった娘は、両親の育てた野菜を使ったサンドイッチをおいしそうに食べる。野菜売場にいけばJASマークに反応し、「この野菜こだわってるね」と言うほどになった。
娘に自信を持って食べさせられる野菜を育て、少しずつ違う目標を持つようになった。
同じような有機農業を始める、次の世代を育てることだ。農業にはきつい、汚い、など、マイナスのイメージがつきまとう。幸男さんは、より多くの若者が農業に興味を示し、農業を始められるような環境づくりにも力を入れる。灌水タイマーなどを導入して、週に一日は休めるような環境を整えたり、雇ってほしい、という若者がいれば、歓迎している。一年勉強するひともいれば、一日で姿を消してしまう人もいるが、農業がよりビジネスとしても注目されることを願っている。
また、娘の成長にともない、食育にも関心を持ち始めた。幼い子供や育てる親たちに、毎日口に運ぶものの安全性の大切さを、知ってほしい。すでに農園の近くの幼稚園には野菜を提供しているが、これからはさらに、率先した食育への取り組みも考えていく。
園田農園で育つ葉物はすべて秋・冬が旬のものばかりだ。夏に育った野菜は味が濃く、辛い。しかし、その味を通して、野菜の「旬」を知って味わってもらえたら。
野菜にできること、自分たちに伝えられることは、まだまだあるはずだ。園田農園の挑戦は続く。



